2022の刺繍ふりかえり

信じがたいことに来週の日曜日から2023年とのことなので、今年のふりかえり...みたいなことを何となくしてみたくなっている。
買ってよかったものの話もしたいし、やってよかったことや、来年したいことの話もしたい。したいのだが、どこから手をつけて振り返っていくべきか...とやや呆然としたので、今年も自分の生活を支えてくれた刺繍の営みを思い出すところから始めたい。
一昨年から、お友だちのキョウ子さん(@kyoko_rf)と、小さな人形用のお洋服のお仕立てと刺繍装飾の交換会をやっていて(「ソーイング合同誌」と呼んでいる)、これは1月中には何とか送ることができた振袖。図案が金木犀なところでお察しの通り、ほんとは秋の晴れ着にしたかったのだけど、お正月に新しいお着物というのもそれはそれでよかったと思いたい。
白地の着物を華やかになるまで刺繍で埋めるというのが思いの外とても大変で、友禅染めなどの工芸品を見る目がめちゃくちゃ変わりました。すごいぜ。
これも年末からクリスマスにかけて刺していた、冬着のことりたちのお喋りのクロスステッチ。「クリスマスまでに靴下を下げてあげるんだ!!」と宣言し、それを完遂した後、後ろのうっすらと雪に陰った木立が無限に終わらず、正月まで樹々を刺していた。本当に可愛い図案で、それぞれの小鳥の人格(鳥格?)があらわれてくるようで刺していて楽しかったです。みんないろんな毛糸のおようふくでモコモコしていて目が暖まる気持ち。今年の冬もリビングに登場して何かおしゃべりをしているようです。
春!!という感じのビオラの花々はブックカバーのキット。家族からのクリスマスプレゼントでもらったキット、色合いも図案も春に向けて刺すのにぴったりで最高だった。
コスモの刺繍糸、ちゃんと使ったのはこちらのキットが初めてだったのですが、普段使っているオリムパスの糸とは違った色合い・風合いがあっておもしろかったです。
ステッチもシンプルなのに順番通り刺していくと本当にお花が咲いたようになるの、とてもいいキットでした。刺す色番がめちゃくちゃわかりにくいのだけ何とかしてほしい。
とてもかわいい図案だったので、手持ちのワンピースに一輪お借りしています。

さて、今年の刺繍では個人的に大きな2つのプロジェクトに挑戦している(とはいえ初めからそうしようと思ってやったわけではない。取り組んでみたら思いの外規模が大きくて、ひとつの季節から飛び出していったのです)。

ひとつは、二頭の狼のクロスステッチ。黒く目の細かい布に、虹色に見えるほどさまざまなブラウンの色を混ぜながら刺す、初めて明確に「上級者向け」と題されたキット。
キットを開封して糸巻きに色糸を整理していく瞬間大好きなのだけど、さすがに色数にひるんだ記憶がある。実際には複数の色糸を一本ずつ分けとって撚り合わせる「混色」があるため、この糸巻きのざっくり2倍の色で刺すことになったし。
また、刺し始めて気がついたのだが、黒い布ということは、チャコペンでの印付けができないんですね...チャコペンが使えないと要はブラインドタッチみたいなことになるのだが、デリートキーが存在しない刺繍においてはかなりそれが大変でした。
いろいろ試行錯誤した挙句、図案をコピーして、刺したはしから塗り潰していくという原始の手法がもっともミスが少なく思考ストレスがかからない気がしてオレンジ色のマーカーを何本も使い切りました。
長い長い工程の中で、最初は単調に感じていた「茶色」の刺繍が、だんだん鮮やかな虹色のように色ごとのさまざまな顔を持っていることが見えてきて、途中からどんどん頻繁な色替えが楽しかった。淡い淡い茶色は花びらのように甘い色味になること...逆に彩度の高い茶色はまさしく黄金の色として現れてくること。その茶色を並べていくと、少しずつぺたんとくつろいだ耳が表れてきて、
おだやかで美しい鼻面が現れる。
このように、表情がわかったときは本当に嬉しかった。やっと会えたね、という気持ちだった。
そして凛と前を見据える狼を刺し描くことができた。刺している最中も刺し終えた今も、とても愛してしまった図案で、あんなに大変だったのに、もう一度刺したい気がしている。(誰か糸と布代カンパしてくれつつ刺させてくれる奇特なパトロンがいらっしゃいましたらぜひお声かけください)
写真は、我が家の(狼ではない)布いぬたち。見せてやると心なしか嬉しそうにしていた。

並行してもうひとつ取り組んでいたのは、「おまもり屋さん」と題し、政治的なアクセサリーを並べる小さなお店をオープンしたこと。
この「人権のブローチ」を正式には最初の品としておひろめしたのだが、少しずつ作っては出し作っては出しとして、30人くらいの方のお手元に届けることができた。
そんなにもたくさんの方のお手元に、お部屋や、デスクの中や、アクセサリーケースや、時には胸元に、私のつくったブローチを留め置いてくださっているなんて、なんだか奇跡のようで未だに実感がない気もする。

夏ごろまでお店をあけて、盛夏以降すっかり閉めたままにしているのはちょっと当初の計画にはなかったことだけど、「今年はとにかく立ち上げる」を目標にしていたので、ある意味目標通りかもしれない。
日々Twitterで開けっぴろげにしているため、ご存じの方も多いかと思うのですが、双極性障がいとの共生は続いていて、未だにその日起きてみないとその日考えられることのキャパシティがわからない感じである。
小さいとはいえ、「お客さまからお金をお預かりして、それに自分なりに見合うものをお届けする」ということは非常に負担が大きかった(それはそう)。
自分の刺繍技術でもなるべくムラなくお届けできる領域を見定めたデザインと図案設計、材料や梱包資材の調達と帳簿付け、実際の制作と写真撮影・商品ページの作成、告知、注文の整理と発送....こう書き並べるとえらいタスクである。おまたせしてしまったこともあり、大変申し訳なかったが、正直自分の現在の脳みそではかなりよくやったほうと思います、事実としまして...
むしろ初速やや頑張りすぎたので、下半期はお休みを頂きつつ、もうちょっと細く長く続けていくための整理を水面下でさせていただいている。
来年も、自分にとっても持続可能な形で小さな抵抗の輝きをお届けしていけたらいいなと思っています。
選挙やデモやトランスマーチに、私のブローチをつけていってくださった方のつぶやきやお写真、大事にフォルダにしまって、ずっとずっと眺めている。
だいぶ流れは穏やかになったとはいえ、希死念慮は今もずっと私の横を流れていて、いつその向こうに歩み去る日がくるのかもしれない。あるいは事故、あるいは病、あるいは...それは誰しもの横に流れているせせらぎで、私はただいつもその音を聞いているというだけにすぎない。
でも、私が暗い部屋で頓服薬をすすりながら刺して、くるんで、送り出したブローチが、いろんな人のところへ旅をするようなことも、あるのだ。たしかに。いろいろな形で。

今日も、明るい夏の花を刺しすすめるか、これを書くか、という夜でしたので、残る今年も、来年も、たくさん刺して、そのうちのいくつかは旅立たせることができたらいいなと思っています。また来年もそうして生き延びて、みなさんにお会いできますように。
2022.12.23 畑
(おまもり屋Twitter: @HTK_embroidery)
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